オーバーツーリズムの原因は意外なところに|なぜ観光政策は失敗しているのか

オーバーツーリズムは起こるべくして起こったのか?
なぜそうなったのか?

円安だけでは説明しきれない構造的な原因と、
正しい対策を打つために知るべき事実を考察しました。

この記事の内容

オーバーツーリズムは“観光客の問題”ではない

10人分のパーティーを準備しながら1,000人を招待したら、飲み物や食べ物が足りなくなるのは目に見えています。それでも、招待されて人たちが悪いのか?

オーバーツーリズムで「通勤が大変」や「施設が混んでいる」などのニュースを見ない日はない。しかもほとんどの場合、観光客が“悪”という形で伝えられています。貴重な外貨獲得手段になっている観光客は本当に悪なのか?それとも、十分な受け入れ態勢を整えず、観光客の数だけを追い求めたやり方が悪かったのか?

オーバーツーリズムの本当の原因を知るためには、数年前に遡る必要があります。

原因① 人数のみを追いすぎたKPI設計

観光立国を目指し始めた日本は「○○年までに○○万人」という目標を打ち立てました。例えば、2020年は4,000万人、2030年は6,000万人という数値です。官民を問わず、目標人数を超えるためにあらゆる手が打たれました。しかし、ここの最大の問題は「金額」ではなく、「人数」を目標にしたことです。

観光客数=成功という誤解

「入場者数○○を突破!」や「満員御礼」から分かるように、人数=成功と捉える文化があります。2020年のオリンピック開催が決まり、観光先として日本にさらに多くの人が来るはずでした。コロナの蔓延ですべての計画が狂わされるまでは。

コロナのロックダウン中に、人々は“旅行したい”という気持ちを抑えていました。実はその時から、日本は旅行先としてますます注目を浴びていました。オリンピックの宣伝効果はもちろんありますが、その間に官民を問わず、SNSやインフルエンサーなど、ありとあらゆる方法で宣伝が展開されました。

その努力が功を奏し、“日常”が戻ってから多くの観光客が日本を訪れることになりました。その数は凄まじく、2023年は2,500万人、2024年は約3,700万人(前年より1,000万人以上の増加)、2025年は4,268万人を記録しています。コロナ前のピークである約3,200万人(2019年)を大きく上回っています。

記録的な訪日観光客数は元々の機運と分厚い宣伝活動が相まって実現されました。

単価よりも「訪日観光客数」を優先した弊害

「満員御礼」は試合やコンサートなど、高いチケット代だけで経営が成立するビジネスモデルであれば、その考え方に問題はありません。しかし入場料ではなく、入ってからが勝負というビジネスでは、人数だけで儲かる訳ではありません。

ラーメン屋はその分かりやすい例です。全員が安い餃子だけ頼んで帰ったら、店の経営が確実に傾くでしょう。人が来ているだけで光熱費や人件費が掛かり、食器から椅子まで、使用されるすべてのものが消耗していきます。

観光も同じです。人が来ている以上インフラを回すお金が掛かり、使用される設備なども消耗していきます。人が来れば来るほどコストが膨らみ、消耗スピードもさらに速まります。全員が多額のお金を使ってくれれば問題はありませんが、利益がないからこそ負の面だけが目立ちます。

原因② 低価格モデルというビジネスの限界

これだけの人が来ているのに売り上げも利益もなかなか上がりません。この不思議な現象の原因を見ていきましょう。

「安く大量に呼ぶ」モデル

コロナ前に“爆買い”という表現が流行っていました。特定の国の特定のソーシャルクラスの人々が日本で大量の買い物をして、大量のお金を落とす観光客のことです。人を呼べば呼ぶほど落ちるお金の額が増えるため、銀座の路上に大型バスが列をなしていました。

その“成功体験”から、コロナ中もとにかく多くの人を呼ぼうという宣伝戦略が展開されました。SNSとインフルエンサーを使った宣伝が多かったのはそのためです。社会ピラミッドの大多数である下位階層を呼び込むためです。

しかし、この安い宣伝方法がのちに大きな問題を引き起こします。それは“チープな観光”です。

チープな観光で地域に落ちるお金が少ない

チープな観光はその名の通り、観光を安く済ますことです。観光地に行っても、食、宿や移動も極力削るケチ臭い観光です。

SNSとインフルエンサーを使った宣伝のメインターゲットはまさにチープな観光を好む層です。コロナが収束した2023年以降、日本を訪れるほとんどの観光客はこのチープな観光が目的です。コロナ中の宣伝に映った場所やモノの写真・動画を撮影するために各地へ赴き、現地の移動は最も安い路線バス、食も宿もコンビニやビジネスホテルで安く済ますため、地域に落ちるお金は僅かな金額です。

負荷だけが増える

日本は薄利多売のビジネスモデルが多いため、従業員の給与が低く、設備の更新を行う余裕がほとんど残りません。設備増強など夢のまた夢です。本当に“今日を生きるための分”しか稼げません。

そこに大量の観光客が押し寄せると受け入れ側の負荷が高まり、必要な対策を行いたくてもお金がありません。オーバーツーリズムの多くの問題はその“お金不足”によって発生しています。お金があればルール整備、インフラ増強、警備、設備投資などの対策が打てますが、お金がないため我慢するしかありません。

原因③ SNSと写真・動画ビジネス

写真を旅行の思い出として撮っていれば微笑ましい光景ですが、金儲けのために撮っているなら話が変わるでしょう。“楽してお金を稼ぎたい”人の本性と、一般の人が知らないSNSの写真・動画ビジネスの闇について見ていきましょう。

人間の“有名人”になりたいという心理

1000年前は分かりませんが、今の社会では人間が有名人になりたがります。“悲劇のヒロイン”や“主人公症候群”という言葉が生まれるほど、人間の承認欲求は計り知れません。

昔、有名人になるためには努力と確かな才能でテレビに出る必要がありましたが、スマホとSNSが誕生した今では、洗濯用洗剤ポッドを口に入れるだけで“有名人”になります。

そして忘れてはならないのは、SNSの独特な構造です。“インフルエンサー”の影響を受けるのは、そのインフルエンサーに共感する人たちです。インフルエンサーが楽して金稼いでいることを見ると、“信者”であるフォロワーも同じことをしようとします。

SNSの写真や動画がお金になる時代

SNSにアップする写真は個人的に楽しむためという時代がありましたが、それは初期の頃だけです。今はすべてが何らかの形で“お金”につながっています。広告収入の場合があれば、自分がやっているビジネスの宣伝、アダルトコンテンツへの誘導など、普通の人が想像できない形で写真・動画がお金になる時代です。

今流行っている写真に注目が集まります。そして注目が集まるところに、お金も集まります。日本の有名なスポットに人が集まるのはそのためです。有名なところで写真を撮る=お金になるという構造になっています。

お金が欲しい、けどお金は使いたくない人たち

チープな観光を好む観光客はほとんどの場合、社会ピラミッドの下位階層に属する人です。この階層は低所得~労働者でお金にそれほどの余裕がないことが特徴です。旅行の予算が限られているため、削れるコストは積極的に削る層です。

「お金は使いたくないが、お金が欲しい」というのもこの層の特徴の一つです。その特徴が上記の写真・動画ビジネスと一致してしまったことが、オーバーツーリズムに拍車を掛けています。安い宿と安い移動手段(路線バス)でコストを下げることで、より大きな利益が得られます。

原因④ 受け入れ設計の欠如

人をいっぱい呼び込むのはいいが、処理できなければ意味ありません。そのあとのことまで考えなかったことが、特に地域住民にとって問題になっています。

インフラ整備の遅れ

数千万人という目標を立てながら、その人数を受け入れるだけの体制を整えていなかったこともオーバーツーリズムの原因です。パーティーの例えのように、10人しか入らない会場に1,000人を詰め込むには無理があります。

インフラ整備が脆弱で混雑と不便さが目立つところに、社会ピラミッドの上位階層(富裕層)が行くことはありません。

地域住民への還元ができていない

観光客がいっぱい来る代わりに、落ちたお金で町どんどん良くなれば誰も文句言いません。どの観光地もそうなっていないことが問題です。

原因は日本の伝統的な薄利多売や外資系の参入の他に、地域住民を組み込んだビジネス設計になっていないことが挙げられます。「地域を盛り上げる」、「地域の雇用を増やす」という“芯のある”ビジネスモデルはほとんどありません。あるのは、“吸えるものは吸おう”というハゲタカ的な商売です。

オーバーツーリズムの原因は“構造的な問題”である

せいぜい10人しか来ないと思っていたパーティーに1,000人が来てくれているなら、それはありがたいはずです。早速会場を変更し、全員が楽しめるパーティーにしましょう。外貨獲得のために観光立国を宣言した以上、受け入れ態勢を整えるのはホストの務めであり、“真のおもてなし”ではないか?

観光客数を減らせば解決できるほど単純な問題ではありません。観光業が日本の重要な収入源になっているからこそ、押し寄せてくる観光客を賢くお金に変える必要があります。

オーバーツーリズムの原因とその構造的な問題が分かっただけでは意味がありません。中小ビジネスや自治体が取り組むべき戦略を紹介します。

この記事を書いた人たち:

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Intenciaチーム

日本と海外を遊び尽くし、翻訳とマーケティングに長く携わっている“いい歳している”大人たち。
自分たちの手で立ち上げた会社を通じて、多角的な視点と本質を射抜く経営観を日々養っている。

作成日:2026年2月17日
最終更新日:2026年2月17日

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