オーバーツーリズム対策の実践戦略|観光業界と自治体が取るべき構造改革

あなたの地域は、何人呼ぶかを目標にしていますか?
それとも、どんな人にいくら払ってもらうかを設計していますか?

オーバーツーリズム問題の性質に合わせて、いま打つべき対策を解説します。

この記事の内容

オーバーツーリズム対策は「観光客を減らすこと」ではない

企業や自治体が観光に力を入れているのはお金を稼ぐためです。であれば、観光客の数を単純に減らすことは問題の解決にならないはずです。

そもそも、日本のオーバーツーリズムの原因は手当たり次第な宣伝と処理能力不足です。例えるなら、友達10人分のパーティーを準備しながら、見ず知らずの1,000人に招待状を送ったことが原因です。つまり、その構造自体に問題ありました。

しかし、慌てる必要はありません。問題は構造にあるなら、その構造を正しく設計すればいいです。オーバーツーリズムを解決しながら収益をさらに伸ばすため、企業と自治体が取るべき戦略とは?観光業を「量から質へ」転換するための構造改革を見ていきましょう。

戦略① KPIは「客数」から「客単価」へ転換する

成功・失敗の指標として良く使われる“人数”。現状を変えるためには「人の数」ではなく、「一人当たりの金額」に注目すべきです。

訪日観光客数を目標としたモデルの限界

日本が観光立国を掲げてから、成功の目安になっていたのは訪日観光客数です。「2020年に4,000万人、2030年に6,000万人」という目標を設定して、その“ノルマ”を達成するためにありとあらゆるSNSやインフルエンサーまでを使った手あたり次第な宣伝を展開しました。

その結果は今私たちが経験している“利益なき”オーバーツーリズムです。人がいっぱい来ている割に落ちるお金が少ないため、地域経済にその効果・メリットが感じられません。

客単価を目標としたモデルへの移行

その年までに何人を呼び込むかではなく、その年までにいくら稼ぐかという金額目標を設定するべきです。何度も繰り返しますが、観光立国の目的は外貨獲得です。人をいっぱい来させることではありません。

間違った考え方と評価指標を変えない限り、状況が変わることはありません。

戦略② ターゲットを再設計する

人数を目標とすると、“誰でもいいから来て”という手あたり次第な宣伝が展開されてしまいます。しかし、金額を目標とした途端話が変わります。金額が決まると自動的に“誰を客にすべきか”がはっきり見えてきます。「お金がない人からお金を取ることができない」ことを忘れないでください。

誰に来てほしいのかを明確にする

どんな商品・サービスも“誰か“を念頭に開発されています。性別、サイズ、特定の年齢層、使用状況、社会的地位など、必ずメインとなる客層が必ずあります。逆に“誰でもいい・万能”を謳えるものには人の興味が集まらず、結局は誰も買ってくれません。

あなたの商品・サービスのメインとなる客は誰ですか?その人のイメージが浮かび上がってくるぐらい、国、年齢、職業、家族構成などの細かい部分まで明確にしてみましょう。例えば、“妻と小学生ぐらいの子供二人を連れて、家族4人で日本の食材と料理を堪能するために来た、フランスの有名なレストランの40代のシェフ”です。あなたがイメージすべきはこのような客であり、「コーヒー1杯でずっと居座る人」や「写真だけ撮って帰る人」ではありません。

これが「客の質」という、薄々気づいていたけど強く意識して来なかったことです。この意識を働かせることが欲しい客を取るための第一歩であり、オーバーツーリズムの最も効果的な対策です。

その客に合致した宣伝手法を使う

欲しい客の顔が浮かび上がってくるぐらいイメージできたら、今度はその人の生活を想像してみてください。その人は旅行で何を重視するのか?旅行先の情報をInstagramなどのSNSから漁るのか?それともWebサイトや旅行会社から手堅く収集のか?

あなたの客の生活を想像することで、宣伝をどの媒体から展開すればいいのか見えてきます。宣伝ツールを見極めることでほしい客をピンポイントで獲得できるのはもちろん、“いらない客”を同時に防ぐこともできます。

戦略③ 客単価を引き上げる

マネタイズは簡単に言うと、「自分たちが提供するモノやサービスからお金をどうやって取るか」という“仕組みづくり”です。例えば、レストランの“お冷”をイメージすると分かりやすいです。

  • 客が頼んでもないのに水を提供するのか?
  • 提供するならタダ?
  • それともお金取る?取るならいくらにする?
  • 提供しなければ売り上げが減る?それとも増えるのか?

モノやサービスから利益を生み出す総合的な判断・決断がマネタイズです。

観光業、特に地方で観光振興関係者を悩ませるのはこのマネタイズです。観光協会の関係者はこのようなビジネス判断の経験が乏しく、海外観光客のターゲット設計も甘いため、マネタイズは至難の業です。

民間でも同じ問題が起きています。ビジネス判断には慣れていても、提供しているモノやサービスの水準に対して価格設定ミスが多いです。そのミスはやはり、ターゲット設定の甘さと外の世界を知らなすぎることが原因です。

マネタイズは「どう収益を上げるか」という“木”を考えるのに対し、事業化力は「モノ作りから持続性のある経営というゴールまでをどう図るか」という“森”を考える概念です。観光振興関係者も、ビジネスを営む経営者も、木と森の両方を同時に育てることが重要です。

100人から1万円ではなく、1人から100万円を

物、時間、人生。すべてが有限で終わりが訪れます。コツコツ稼ぐというのんきなこと言っていられますか?

日本の労働生産性はOECD加盟の38ヶ国中28位で先進国最下位です。“コツコツ精神”を美化するのは自由ですが、小売りの現場にまでその幻想が浸透したら困ります。薄利多売に未来はありません。特にオーバーツーリズムの弊害を目の当たりにしている私たちは断言できます。

売る時も効率性が重要です。莫大な時間と費用を掛けて100人に1万円のモノを売るより、1人の人に100万円の商品を売る努力をすべきです。自分や従業員の時間と寿命を大事にしましょう。働くために生きている人などいません。

商品・サービスの付加価値を高める

ありふれたものを売っても意味ありません。同じものなら、あなたより安くっている人は必ずいます。現状維持しながら価格競争に巻き込まれたビジネスは「耐える」か「降りる」ことしかできず、生き残ることはほぼ不可能です。

しかし、現状維持というぬるま湯から飛び出て、果敢に攻めて新しい価値を手に入れたビジネスは違います。

客単価を上げるためには、客が魅力を感じる、あなたのところでしか入手・体験できないものを提供すればいいです。なければ作ればいいです。ビジネスは絶えず前に進んだ人のみが成功します。現状維持を選択した時点であなたが追い越され、市場から淘汰されます。

「短期滞在・消費型」から「長期滞在・体験型」へシフトする

客単価を上げるもう一つの方法は、消費の軸をモノからコトへシフトするという手です。

観光の初期段階はモノの消費がメインです。その国の特産品や有名な物を買ったりする観光客が多いです。90年代から定番だった秋葉原の電化製品購入から始まり、コロナ前の“銀座爆買い”を経て、コロナ後の今でも買い物が消費の中心です。特に“爆買い“に関しては一人当たりの購入金額が大きいイメージがあったため、すごいと思った人が多いでしょう。しかし、そんな「モノ消費」よりも稼げるのは「コト消費」です。

モノ消費の一人当たり数千円~数十万円に対して、コト消費は一人当たり数万円~十数万円の世界です。モノ(例えば電化製品)は仕様によって価格の比較ができますが、コト消費は価格の比較が難しいです。しかも、その内容・独自性に価値を感じれば、数百万を払う人だっています。

モノ消費からコト消費へのシフトは観光協会やDMOなどの観光振興関係者が加わると、民間が得られる効果はさらに高まります。

オーバーツーリズム対策は「マーケティング改革」である

オーバーツーリズムの解決は客を減らすことではなければ、制限することでもありません。自分の付加価値を高めて、客単価を引き上げて、あなたが理想とする客を呼び込むことが最強の対策です。「付加価値」、「客単価」、「宣伝」、いずれもマーケティングそのものです。つまり、オーバーツーリズムをなくすためには、経営者はビジネスに、観光振興関係者は地域に、それぞれの特性に合ったマーケティング戦略を練る必要があります。

付加価値、ターゲット設定、客単価・・・
いずれも海外とマーケティングの知識が必要なタスクです。一人で悩まず、あなたが気づいていない価値を引き出せる人に聞いてみましょう!

この記事を書いた人たち:

Picture of Intenciaチーム
Intenciaチーム

日本と海外を遊び尽くし、翻訳とマーケティングに長く携わっている“いい歳している”大人たち。
自分たちの手で立ち上げた会社を通じて、多角的な視点と本質を射抜く経営観を日々養っている。

作成日:2026年2月17日
最終更新日:2026年2月18日

関連記事