海外展開や製品輸出で「英語マニュアルが必要」になったとき、「自分でやるべきか」それとも「翻訳会社に依頼すべきか」という難しい選択を迫られます。
この記事は判断基準を含めて、どちらにすべきかを分かりやすく説明します。
取扱説明書の英語化には2つの方法しかない
取扱説明書を翻訳する方法は2つしかありません。自分でやるか、他人に頼むかのどちらかです。どの方法を選択しても、人間・機械・AIのいずれかの手法で処理されます。ここではそれぞれの方法について簡単に説明します。
自社で作成する(社内翻訳)
最も早い、正確、そして安い方法は間違いなく自分で翻訳することです。
なぜそんなことを断言できるかというと、私たちは元々メーカーの社内翻訳者だからです。自分たちで翻訳したものと翻訳会社に依頼した時の差を何回も比較しているためです。
社内で翻訳するためには外国語ができることはもちろん、翻訳のスキル、CATツール(翻訳に使うソフトウェア群)、そのツールを回すための性能のいいコンピューターが必要です。お金と時間の初期投資は凄まじいですが、思い通りの翻訳を手に入れることができます。
翻訳会社に依頼する
“貴族の遊び”にも見えてしまう初期投資ができない場合、翻訳会社に依頼するのが最も一般的な方法です。
フリーランス翻訳者やクラウド系の翻訳サービスに依頼することももちろんできますが、英語が分からず、取り扱い説明書の良し悪しを自分で判断できない場合は危険です。イチゴを頼んでバナナを渡されるようなものです。イチゴを見たことない人がどうやってそれをイチゴだと判断できるのか?
そういう意味では翻訳会社の方がちゃんとしているから、翻訳会社に依頼することが一般的なやり方です。
自社で英語マニュアルを作る場合のメリットと難しさ
自分たちで翻訳するのは一番いい方法です。ここでは、私たちがメーカーの社内翻訳者だった時の経験に基づいて、取扱説明書を社内で翻訳した場合に得られるメリットと問題を説明します。
早い、正確、安い
早さ、正確さと安さが社内翻訳の最大の魅力です。
翻訳会社の都合やスケジュールに合わせる必要がないため、翻訳が必要になったら自分たちですぐにできます。製品の公開に間に合わせるために急ぐ必要があれば、自分たちで翻訳のペースを上げれば済む話です。
早さ以上のメリットは正確さです。取扱説明書は用語集・スタイルガイドと過去の翻訳に合わせて初めて高品質なものであり、そのためにはそれぞれのルールを正確に従う必要があります。CATツールによる力も大きいですが、ずっと自分たちで翻訳し続けているからこそ、そのルールが身に染みついています。
また、製品の構造や機能に関する疑問があった場合、開発部に行って直接聞けることも大きなメリットです。製品を作った当の本人たちが詳しく説明してくれます。
費用は条件付きですが、翻訳会社に外注するより安いです。社内翻訳には莫大な投資が必要なため、一概に言えないものです。詳細は次の項目で説明します。
長い道のりと投資回収
費用を含む社内翻訳のメリットを受けるためには、社内の翻訳部隊を育てる必要があります。その翻訳部隊を育てるのに莫大な時間と費用が必要です。その投資をどのぐらいで回収できるかは会社によって異なります。
例えば、たった一つの取扱説明書で終わったら投資の回収はできません。しかし、その取扱説明書の翻訳が定期的・長期的に発生し、商品のウェブサイトやパンフレット、カタログなどの販促資料も含めて翻訳すればすぐに元を取れます。
簡単な“費用感”ですが、CATツール数種類だけで50万円以上が必要です。それらのツール、原稿、資料等を全部開いて処理するためのコンピューターに70万円以上は掛かるでしょう。メモリの値段が今後も上がり続ければなおさらです。しかし、一番大変なのは人件費です。それらをすべて使いこなせるプロは月60万円から話を聞いてくれるでしょう。当然、人件費に関しては会社の費用はその60万円で終わるはずがなく、数名必要ならその分だけすべてが倍になります。
以上のことを考えると、翻訳を自社で作成するのは次のような企業です:
- 定期的に商品を発売し、取扱説明書を翻訳する
- Webサイト、カタログ、パンフレットなども翻訳する
- 高い技術力を持つ人材を確保または育成できる
- 翻訳メモリ、スタイルガイド、用語集が扱える
- 投資回収に数年掛けられる財力を持っている
最強の社内翻訳vs最強の翻訳会社
「品質」という基準で考えたとき、最も高品質な取扱説明書を出せるのはどっち?最強の翻訳者たちが集まる社内翻訳?それとも最強の翻訳者たちがいる翻訳会社?
そのどちらも経験しているからこそ、私たちは迷うことなく「最強の社内翻訳」と答えます。理由は「アクセスできる情報量」と「最後は好みだ」の2つです。
まずは社内の翻訳部隊がアクセスできる情報の量です。取扱説明書を翻訳していると、必ず疑問が出てきます。日本語と同じ言い回しができないこともあります。機械・ソフトウェアの挙動が分からないときもあります。実物を見て、触って、開発側に直接聞かなければ分からないことがたくさんあります。
社内翻訳者はそのすべてにアクセスできます。翻訳部とRD拠点(開発部)が同じ建物なら、ちょっと歩けばすぐ聞けます。この圧倒的な情報量の差が、社内翻訳と翻訳会社の明暗を分けます。
もう一つは「好み」です。翻訳はネジなどの規格品と違って、決まった正解がありません。10社に依頼したら、10通りの翻訳が返ってきます。誤訳がなく、スタイルガイドなどのルールを遵守していれば、すべてが正解です。しかし、最終的に選ばれるのは1つだけです。あなたの“好み”に合う翻訳です。
美容室で髪を切る時、細かい指示を出したのにちょっと違う形になった経験ありませんか?その時は「自分で自分の髪を切れたらいいのに・・・」と心の中で思ったはずです。社内翻訳は自分で翻訳できるからこそ、寸分の狂いなく“理想”の翻訳ができます。
「完璧なもの欲しければ自分でやる」。これは完璧を求める者が行き付くところです。
取扱説明書を翻訳会社に依頼するメリットと問題点
英語の取扱説明書を自社で作るハードルが高いからこそ、翻訳会社に依頼する企業が多いです。しかし、世の中の全ての会社が「最強の翻訳会社」ではありません。当たりがあれば、ハズレもあります。ハズレに遭ったら、納品後の修正地獄やゼロからのやり直しから発注担当者の責任追及まで問題がややこしくなります。
ここでは、翻訳会社に依頼するメリットと起こりうる問題について説明します。
丸投げできるから楽
取扱説明書の翻訳を翻訳会社に依頼する最大のメリットは丸投げできることです。“お金で解決”することで自社の人的負担が減り、他のもっと重要な業務に集中できます。莫大な投資で社内の翻訳部隊を育成する必要もないため、いろんな意味でとにかく楽です。
翻訳の品質は翻訳会社次第
しかし、本当に楽できるかどうかは返ってきた翻訳の品質次第です。
取扱説明書の翻訳に強い翻訳会社に依頼できれば、もらったファイルをチェックする必要はありません。一回目を通す程度だけで充分です。しかも、取扱説明書に必ず必要なDTP(見た目・レイアウト調整)も翻訳者自身がやってくれれば、追加費用なしでそのまま印刷することができます。
取扱説明書の翻訳に必要な知識・技術を持っていない翻訳会社に依頼してしまうと、上記の夢のような翻訳が返ってくることはありません。楽するどころか、余計な費用と時間を取られる結果になります。
選び方を間違えると起こりうること
私たちがメーカーで依頼する側だった頃、莫大な修正や翻訳のやり直しなどの問題を経験しました。
翻訳メモリ、用語集やスタイルガイドなど、数々の資料を出しているにも関わらず、いい翻訳がなかなか帰ってきませんでした。従うべきルールをほぼ無視した翻訳があれば、違う言語の翻訳を納品する翻訳会社もありました。選び方を間違えると、結局は費用と時間を掛けて社内で修正したり、翻訳をゼロからやり直したりする覚悟が必要です。
英語の取扱説明書を作るときの失敗を減らす方法
英語の取扱説明書を自社で翻訳するときも、翻訳会社に依頼するときも、共通しているチェックポイントがあります。失敗を減らす方法として参考に使ってください。
原稿を整える
意外と見落としがちなのは原稿です。用語や表現を統一したくても、日本語がバラバラだったらどうしようもありません。
日本語の原稿を作る時は細心の注意を払って、統一できる用語、表現を漏れなく統一しましょう。原稿の作りが弱いと翻訳も当然弱くなります。
用語集を用意する
私たちが翻訳していたのはパソコンに接続する周辺機だったため、操作するためのソフトウェアもありました。この場合、その周辺機のパーツ名よりも、ソフトウェアのUIも用語集の対象になります。ソフトウェアのUIはウィンドウ、ボタンやメッセージを含めて何万件にもなりますので、用語集は翻訳に大きなインパクトを与えます。
多少面倒くさくても、取扱説明書を翻訳するときは必ず用語集を用意しましょう。適当にやったり、手を抜いたりすると、待ち受けるのは“地獄の修正”です。
用語集の詳細については用語集のメリットをお読みください。
スタイルガイドを矛盾なく作る
スタイルガイドは用語以外の処理方法を決める“翻訳のルールブック”です。表記方法から使うべき表現まで細かい指定が無数にありますので、数百ページの“大作”になることは珍しくありません。数が増えれば増えるほど、気を付けなければならないのは「ルールの矛盾」です。
1人でやっても、複数名のチームで作っても、ルール間に矛盾がないように気を付けましょう。正反対のことを言ったり、広い解釈ができてしまう曖昧なルールを作ってしまったりすると、地獄の修正はもちろん、不要な口論をも招いてしまいます。
自作か依頼かを判断できる2つの質問
次の2つの質問に答えるだけで、取扱説明書を自社で作るべきか、翻訳会社に出すべきか分かります。
今後も継続的に取扱説明書を翻訳しますか?
取扱説明書が必要なサービスまたは商品がこれからも定期的に発売される場合、自作を考える価値があります。なぜなら、長く続けることで初めて社内翻訳に必要な投資の回収が見込まれて、翻訳会社よりメリットが出てきます。
社内翻訳部隊を確保または育成できますか?
今後も継続的に取扱説明書を作ることになったとしても、社内の翻訳部隊を作るためにはお金と時間が必要です。社内翻訳に必要なソフトウェア・ハードウェアと人件費を捻出できれば、さっそくチームを発足すべきです。
そのチームがどれぐらいで使い物になるかは人材と育成方法次第です。社内翻訳チームの育成方法についてもご相談承りますので、詳細が気になる方はメッセージください。
まとめ
取扱説明書の英語を自社で作るか、それとも翻訳会社に依頼するかは、初期投資を回収できるかどうかで判断すべきです。投資回収が難しそうなら無理せず、翻訳会社に依頼しましょう。逆に投資を回収できる見込みがあれば、迷わず社内翻訳チームを作りましょう。品質・納期・コストのメリットは計り知れません。
取扱説明書の英語版作成が決まったら、高品質なマニュアルを作る方法をお読みください。自作でやっても、翻訳会社に依頼しても、良い取扱説明書を作るためのヒントをまとめました。












