取扱説明書を普通の文章のように翻訳したり、翻訳会社に丸投げしたりしていませんか?
いいマニュアル・問題を起こすマニュアルの決定的な違いと依頼に失敗しないための判断基準を教えます。
本記事は「取扱説明書の翻訳」をテーマに解説していますが、「マニュアル翻訳」も同じ意味として扱います。
マニュアル翻訳とは何か
マニュアルは製品などについている取り扱い説明書のことです。製品の使い方や注意点などを教えるもので、1枚の紙から数百ページのものあります。
マニュアルの目的
一般的な文章と比べて、マニュアルには「製品の使い方を教える」という明確な目的があります。その目的には次の“願い”が含まれています:
- 間違った使い方を防ぐこと
- カスタマーサポートへの不要な問い合わせを減らすこと
- あらゆる機能を説明して、ユーザーが“買ってよかった”と思ってもらうこと
上記の目的を果たすためには“分かりやすいマニュアル”を作ることが一番重要なことです。分かりづらいマニュアルを作ってしまうと、事故が発生し、サポートセンターがパンクし、悪い評価で売り上げが下がります。
一般的な文章との違い
一般的な文章はどう書こうが関係ありません。カッコつけて難しい言葉を並べてもよし、文豪気取って抽象的な文章を書いても問題ありません。“翻訳は芸術だ!”と考える人たちがいるのはそのためです。
しかし、マニュアル翻訳の場合、「ユーザーに理解させる」という確固たる目的があります。理解させるためには分かりやすい文章が必要で、人が分かりやすいと思う文章は様々な “技術”でできています。つまり、一般的な文章は“感性”で翻訳されるのに対し、マニュアルは“理性”で翻訳します。
なぜマニュアル翻訳は失敗するのか
自社で翻訳しても、翻訳会社に依頼しても、分かりにくい翻訳ができてしまうことは意外とあります。では、なぜ分かりにくい翻訳ができるのか?
マニュアル翻訳に必要な技術がない
新人!英語できるでしょ?このマニュアルの翻訳、お願いね!
これは中小企業でよくある話です。英語でメール書けるからマニュアルも翻訳できると決めつける先輩と、(半強制的でありながらも)あまり深く考えずに翻訳してしまう後輩の一コマです。しかし、これは先輩・後輩の間だけで起きている問題ではありません。
翻訳会社とフリーランスの世界でも同じことが起きます。仕事欲しさにできないことをできると言ってしまい、マニュアルに必要な知識・技術を持っていないのに翻訳してしまいます。そのツケを払うのはもちろん、ニュースになったあなたの会社です。
翻訳会社の選び方を間違える
マニュアル翻訳が得意な翻訳会社も実は少ないです。
ほとんどの翻訳会社は獲った仕事をフリーランス翻訳者に再委託します。つまり、フリーランス翻訳者がマニュアル翻訳の知識・技術がなければ、分かりにくいマニュアルができてしまいます。
マニュアル翻訳の知識・技術を持っているのは、主にメーカーで社内翻訳者の経験を持っているフリーランスです。しかし、メーカーの社内翻訳者人口が圧倒的に少ないことを考えると、本当にマニュアルを翻訳できるフリーランスの人口はほんの一握りです。内容と、翻訳会社の予算に合うフリーランスを探すとなると、状況がさらに厳しくなります。
その背景を知らずに翻訳会社を選ぶと、コールセンターの電話が鳴りっぱなしになるのも時間の問題です。
良い取扱説明書の条件
良いマニュアルは分かりやすい取扱説明書です。では、マニュアルの“分かりやすさ”はどこからきて、どうやって生み出されるのか?
文章が分かりやすい
製品を使う前に取扱説明書を真面目に読む人がいますが、それはごく一部です。ほとんどの人は相当困らない限り、マニュアルを読むことはありません。
つまり、取扱説明書を読むのはパニック状態で何らかの答えを必死に探そうとしている人です。人は“パニクっている”とき当たり前のことができなくなってしまう。文章の理解力も当然落ちます。そんな状況でも問題を解決できれば、“マニュアル様様”です。
要するに、理解力が落ちている人でも理解できる取説が良い取説です。
いつも同じ単語を使う
取扱説明書を参照している時点で、その人は製品や仕組みに詳しくないと思ってください。そこに、同じ“ハードディスク”を指すときに:
- HDD
- ハードドライブ
- ディスク
- 内臓ストレージ
- 記憶装置
- ストレージ
- ドライブ
が使われたら、ユーザーが混乱するだけです。せっかく“ハードディスク”という言葉を覚えたのに、なぜ次々と新しい言葉を出してくるのか?泣きっ面に蜂、弱り目に祟り目。
そのイヤな体験をするだけで、「取扱説明書が分からない→製品が使えない→お金を無駄にした→その会社の製品が悪い」という結果につながります。
ユーザーの理解を高めるために用語の統一がマニュアル翻訳の必須条件です。文豪を気取って語彙力を見せびらかすのは他所でやってください。
慣れている表現を使う
“用語”を統一すると理解が上がりますが、似たような仕組みで“表現”も統一することで分かりやすさが上がります。
例えば、連続操作の指示を出すとき、次のような書き方ができます:
- 「ファイル」→「オプション」→「全般」
- ファイルメニューをクリックしてからオプションを選択して、全般をクリックします
正解はありませんが、取扱説明書で使う書き方を統一することでユーザーがその指示に慣れます。指示に慣れると内容が分かりやすくなります。
表記方法も同じです。「一つ、二つ、三つ」か「1つ、2つ、3つ」のどちらにしても正しいですが、統一することでユーザーが引っ掛かることなく、理解が確実に上がります。
取扱説明書翻訳の品質を決める3つの要素
取扱説明書の品質を決めるのは、用語と表現・表記を含めて、分かりやすく翻訳された文章です。分かりやすい文章、用語と表現・表記を手に入れるためには何が必要か?
マニュアル翻訳の知識と技術を持つ翻訳者
一般的な文章と違って、取扱説明書はとにかく分かりやすく、情報が伝わる形で翻訳しなければなりません。その本質を理解し、マニュアル翻訳に必要な知識と技術を持っている翻訳者に頼む必要があります。
用語集で統一された用語
取扱説明書の用語を統一するためには用語集というものが必要です。用語集は日本語と英語の“単語帳”のようなもので、日本語の特定の単語が出たときに、英語ではそれに対する単語を使います。
用語集の詳細については用語集のメリットをお読みください。作り方・使い方などを確認できます。
スタイルガイドで統一された表現・表記
スタイルガイドは使用する表現や表記など、翻訳全般のルールを決める“ルールブック”です。翻訳のルールはほとんど“好み”なので、依頼者自身が翻訳を始める前に作成する必要があります。
スタイルガイドを見たことがなく、どのようなものか知りたい場合はMicrosoftのスタイルガイドをチェックしてください。自社のスタイルガイドを作る時の参考になります。
失敗しない翻訳会社の選び方(マニュアル特化)
取扱説明書の翻訳を依頼する前に、翻訳会社の次のところを確認してみてください。絶対ではありませんが、その会社が納品しそうな翻訳を予想できます。
翻訳者の経歴を見る
取扱説明書の翻訳を行う翻訳者はメーカーの社内翻訳者として経験を持つのか?メーカー側で経験を積んでいれば最高ですが、無い場合はどのような翻訳が得意か見てみましょう。
翻訳を“芸術”として捉えて、冗長な文章を好む翻訳者は取扱説明書の翻訳に向いていません。
CATツールを使っているかどうか確認する
翻訳の規模によりますが、用語集とスタイルガイドは数万件、数百ページにも及ぶ大がかりになることが多いです。それを全部頭に入れて、思い出しながら翻訳していくことは不可能です。用語集とスタイルガイドが必要な案件は必ずCATツールで翻訳する必要があります。
翻訳を依頼するときに、翻訳者がCATツールを使うかどうか確認してください。できれば、使うCATツールの種類も聞いてください。無料ツールやクラウド系CATツールでは用語集・スタイルガイドを生かし切ることが難しい場合があります。
用語集とスタイルガイドのチェックがどのように行われているか聞く
翻訳時に用語やルールを適用しながら翻訳しますが、漏れや見落としはどうしても発生します。翻訳者も人間ですから。
重要なのは、それらのミスを如何に見つけて、漏らさず修正するかです。暗記しながら目で探すところがほとんどなので注意が必要です。“レビュアー”、“チェッカー”、“QAマネージャー”などでの単語に臆することなく、具体的な方法を確認してください。
依頼前に準備すべきこと
用語集とスタイルガイドを事前に準備することは重要ですが、それよりも大事なものがあります。
原稿にも気を配る
いくら完璧な用語集・スタイルガイドを用意しても、原稿である日本語の用語がバラバラだったら用語集はほとんど当たりません。そのため、翻訳の見積もりを依頼する前に、原稿の用語や表現も極力統一しましょう。
まとめ|マニュアルの品質は翻訳者、用語集とスタイルガイドで決まる
英語の取扱説明書を作ることで製品を海外に売ることができます。売り上げが伸びれば、会社にとって大きなチャンスになります。しかし、品質が低い取扱説明書を作るとブランドに傷が付き、売り上げが逆に下がってしまいます。
高品質な取扱説明書は分かりやすいものであり、分かりやすさを高めるためには必要な知識・技術を持つ翻訳者、用語集とスタイルガイドを上手く組み合わせる必要があります。












