翻訳の話でしばしば出てくる用語集。
用語集は何なのか?なぜ翻訳に用語集が必要なのか?
用語集の正体、使うメリットとビジネスの競争力を高める方法について詳しく説明します。
翻訳における“用語”とは?
翻訳の世界では、「用語」は“特別な単語”を指し、決まった形で翻訳しなければならないものです。
用語の具体的な例
例えば、英語の「Hard Disk」という単語があります。通常は「ハードディスク」に訳しますが、文脈によって「HDD」でも、「記憶装置」としても翻訳できます。このように、複数の選択肢がある時、どれにしても問題ありません。しかし、英語の「Hard Disk」は「ハードディスク」に翻訳してくださいという指定があれば、“ハードディスク”が用語になります。
用語集とは?
用語集は上記のような指定用語を集めた“辞書”のようなファイルです。翻訳者は用語集に指定されている用語に従って翻訳しなければなりません。
用語集は頭で記憶できる3件だけのものがあれば、数万件にもおよぶ大規模なものもあります。
用語集と翻訳メモリは何が違う?
用語集は単語単位のデータベースです。翻訳メモリはワンフレーズ単位のデータベースです。
用語集が翻訳メモリから独立しているのは、用語チェックを単独で行うためです。翻訳支援ツールを使うと、翻訳が終わった後だけではなく、翻訳している最中でも様々なチェックが行えます。そのチェックの一つに用語チェックがあり、用語チェックを行うために用語集と翻訳メモリが別々になっています。
用語集を使うメリットは?
用語集の正体などを見てきましたが、これからは一番重要な部分です。用語集を作る理由について見ていきます。
用語集を使うことで依頼者が受けるメリット
指定された用語で翻訳される→ユーザーが理解しやすくなる
買う側のニーズを把握しているのは売る側です。各メーカーも顧客が何を求めているのかを知り、そのニーズに応えることで、顧客とのエンゲージメントが深まります。
使い慣れている用語を翻訳に使うことで、ユーザーとのコミュニケーションがスムーズに行えます。
不要な問題を未然に回避できる
用語集を提出せずに翻訳し、納品後も修正することなく翻訳を公開した場合、ユーザーがその内容を理解できない可能性があります。マーケティング資料の場合は販売の機会損失で済みますが、マニュアルの場合、サポートセンターに不満なユーザーの電話が殺到します。
用語集の重要性はこのような形でも出てきます。
アイデンティティを守る→売り上げが上がる
用語集はマーケティングに深く結びついています。
例えば、だれもが知っている「車の鍵」が面白い事例です。単純に車の鍵と呼べば済みますが、メーカー各社が「スマートキー」や「インテリジェントキー」など、独自の呼び方をしています。当然、翻訳するときも、それぞれの呼び方に合わせなければなりません。
一見、私たちの人生を難しくしているだけに見えますが、実はビジネスにおいて大事な“差別化”というものを図っています。この差別化を図ることで、他社より優位にビジネスを進めて、売り上げを拡大できます。用語集を作って、用語集の通りに翻訳する重要性はここにも現れています。
用語集を提出する→納期が早まる
使ってほしい用語があるにも関わらず、用語集を出さずに翻訳を依頼すると、納品後の莫大な修正作業が待っています。
日頃から用語集を作成・管理し、翻訳依頼時に提出することで、納品後の無駄な修正作業を回避できます。
用語集を使うことで翻訳者が受けるメリット
依頼者が求めている用語を推測する必要があない→翻訳のスピードが上がる
用語集が提出されていない場合、翻訳者は自由に用語を選ぶことができます。一見して楽に見えますが、その自由こそが悩みの種になることがあります。
自由に設定できるとは言え、プロの翻訳者なら依頼者の好みを推測します。そして推測するためには、調べに多くの時間が費やされます。しかも、挙句の果てにその推測が間違っている可能性もあります。
依頼時から用語集を提出することで、翻訳者は最初から正しい用語を使います。しかも、その用語に合わせて前後の文章を合わせることもできます。調べる手間が掛からないため納期が早まるだけではなく、文章全体の質も格段に向上します。
用語統一はなぜ重要か
用語統一の重要性を「ハードディスク」の事例で見ていきましょう。同じ文脈であれば、「HDD」や「記憶装置」と呼んでも分かる人が多いでしょう。しかし、私たちの親世代やパソコンに詳しくない若い世代でも、「ハードディスク」、「HDD」、「記憶装置」はそれぞれ同じものを指すと思わず、混乱する可能性が高いです。
経験が浅い翻訳者は“語彙力”を披露したがることが多く、同じマニュアルに上記の3種類の用語を考えずに混ぜます。「ハードディスク」しか分からない人は「HDD」や「記憶装置」を見たとき、指示の内容を理解できずに困ったままです。そのようなマニュアルはもはや、マニュアルの役割を果たしていません。用語を統一することが大事なのはそのためです。
用語集を使うための条件
用語集を活用するためには、翻訳支援ツールというアプリケーションを使う必要があります。私たちは業界で最も使用・信頼されているTradosというツールを使用しているため、ここではTradosをベースに説明します。
用語集に対応している翻訳支援ツールを使うこと
TradosはMultiTermという独自の用語集機能に対応しています。その2つを連携することで、翻訳者が翻訳しながら、用語が自動的に提案されます。
CATツールとは
CATツールは原稿を整理して、翻訳しやすい形に整えるアプリケーションです。翻訳メモリはもちろん、用語チェック、スペルミス、数値チェック、翻訳の統一など、複雑かつ豊富な機能を持っています。
高機能なアプリケーションだからこそ、使いこなすには高度な知識と技術が求められます。翻訳支援ツールが使える翻訳者が少ないのはそのためです。
また、価格も高いです。実務レベルで使えるパソコンと補助ツールを含めると、60万円以上の投資が必要です。決して安い投資ではないので、CATツールのメリットとデメリットについても確認する価値があります。
マーケティング翻訳に精通している翻訳者が翻訳すること
“車の鍵”のように、一般的な物の名前を自社特有の用語に置き換える会社があります。しかし、原稿に出てきたすべての“車の鍵”をそのように翻訳しなければならないかというと、そうではありません。
翻訳者が文章の一つ一つを読み、確認しながら、その意図を判断する必要があります。つまり、用語集に従う必要がある箇所があれば、会社特有の用語にせず、一般名詞のままにする必要がある箇所もあります。
その判断にはマーケティングの知識が求められるため、用語集さえあればすべてが完璧に行われるわけではありません。どの仕事もそうですが、作業者の知識と技術のレベルが結果を決めます。
用語集がデメリットに変わるとき
用語集がデメリットになるのは、知識が足りない翻訳者が正しい判断を下せなかったときです。用語集が機械的に使われてしまうと、文章の意味が通じなくなったり、マーケティング効果がなくなったりします。
この問題を防ぐためには用語集を正しく作り、その用語集を正しく運用できる翻訳者に翻訳を依頼することが重要です。
用語集の作り方
用語集を作るのは意外と簡単です。Excelを開き、A列にソース言語の単語、横のB列にはターゲット言語の単語を入れるだけです。
例えば、英語から日本語への翻訳の場合、セルA1にはHard Disk、セルB1にはハードディスクを入力します。他にも用語があれば、下のセルに追加していくだけでできます。
翻訳時に私たちがExcelファイルに特別な処理を施し、翻訳に使うための用語集に変換します。
用語集の管理
時代やマーケティング方針の変更などで用語が変わることがあります。その時、Excelで作成した表に必要な変更を加えるだけで、用語集を常に最新の状態に保つことができます。
用語集が向いている案件
用語集はブランディングや企業の独自性を強調したい“マーケティング色”の強い翻訳に向いています。また、ソフトウェアのマニュアルのように、アプリのボタンの名前を正確に書く必要がある翻訳に重宝されます。
マニュアル(取り扱い説明書)
用語集が能力を最大限発揮するのは、ソフトウェア関連のマニュアルです。
例えば、コンピューターにインストールされているアプリケーションのマニュアルがあるとします。そのアプリケーションに出てくる画面名、ウィンドウ名、ボタン名、メニュー名などすべてが用語です。マニュアルに書くときは画面に表示されている通りの名前にする必要があります。調べずに翻訳すると、マニュアルの指示と画面の表示が一致しなくなり、テンパっているユーザーがさらに困ります。
画面に出てくるものは“UI”(ユーアイ)と呼びますが、一つのアプリケーションのUIの数は数万以上になることがあります。数万件の用語を記憶して翻訳することは不可能であり、できたとしても、目視で一つ一つ確認する場合は数か月の時間を要します。翻訳支援ツールに用語集を連携させるのはそのためです。
用語集が生かされるマニュアルの種類:
- 取り扱い説明書
- ヘルプファイル
- インストールガイド
- トレーニング資料
Webサイト
Webサイトはマーケティング要素が最も色濃く出る翻訳であり、用語集を使って初めて狙い通りの結果が得られます。売り上げを伸ばすチャンスも、既存顧客をファンに変えるきっかけも、用語という細かな仕掛けによって成立します。
軽視されがちですが、社内向けの情報(イントラネット)にも用語集が重要な役割を果たします。社内向け情報は自社特有の用語が使われることが多いため、用語集を設定しておくことでより効率的な情報共有ができます。
用語集が生かされるWebサイトの種類:
- ランディングページ
- キャンペーンサイト
- サービスサイト
- ブランドサイト
- コーポレートサイト
- ECサイト
- 社内サイト
用語集の恩恵を最大限受けるために
用語集があれば完璧な翻訳ができる訳ではありません。その効果を高めるためには、原稿と用語集の内容にも工夫が必要です。
原稿で用語が正しく記されていること
用語集が完璧な状態であっても、原稿の表記が間違っていたら用語集が当たりません。翻訳メモリと同じように、原稿の状態によって用語集の効果が変わります。細心の注意を払って作られた原稿に用語集も最大限の効果を発揮しますが、用語が間違って表記された原稿では用語集はそれほど役に立ちません。
用語を使うかどうかの判断ができる説明がある
案件によっては、似ている用語が複数あったり、指定された用語を使わなくてもいいときもあったりします。その判断をするためには、翻訳者は用語に記載されている備考を確認します。
用語集はソース言語とターゲット言語の2列しかないと思われがちですが、実は複数の列で番号、カテゴリー、細かな備考などが含まれていることが良くあります。その細かな情報が翻訳の精度と効率を高め、納品後の不要なチェックや修正を防ぐ重要なヒントです。
用語集の注意点
用語集を使う上で注意しなければならないこともあります。特に重要なメンテナンスと使用について説明します。
定期的なメンテナンスが必要不可欠
翻訳に正しい用語を使うためには、用語集を定期的に確認、追加、変更と削除を行うことが重要です。 実務では用語集がsdltbやtbxなどのフォーマットで運用されますが、クライアント自身がメンテナンスを行うためには、Excelファイルベースで作成と管理をお勧めします。
間違った使い方をすると品質が逆に落ちる
翻訳の品質を上げるために用語を使うことが大事ですが、用語を間違って使うと品質が逆に落ちることがあります。用語を使わなければならない場所があれば、逆に使ってはいけない場所もあります。使うことが“ルール”だと思い込んで、反射条件のように用語を適用してしまうと、読みにくいまたは理解不能な翻訳になる可能性があります。
特に翻訳後のチェックにおいて、状況を把握できていないレビューアーや翻訳会社が一括置き換えで機械的に“変更”することがあります。この点に注意が必要です。
まとめ
用語は自社でしか使わない、または翻訳時に使ってほしい特定の単語のことです。用語集はその特定の単語を一つのファイルにまとめたものです。
予め用語を決めて、統一することで、文章を読む人の理解が高まる効果があります。理解しやすい文章を作ることで、新規顧客に対する販売チャンスが増えるだけではなく、既存顧客の満足度を高めることにもつながります。つまり、ビジネスの競争力が向上します。
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