失敗しないように綿密な打ち合わせを行ったが、翻訳の品質が低かった。
用語集やスタイルガイドを渡したのに、全く参照されず、結局は社内で再翻訳になった。
その問題はなぜ起きるのか?そしてどう防げるのか?
なぜ翻訳会社に依頼しても翻訳のやり直しが起きるのか?
依頼時に細心の注意を払ったにも関わらず、やり直しレベルの翻訳が納品されるのは、その翻訳会社は品質よりコストを優先する業者だったからです。
私たちが経験してきたこととその舞台裏を含めて詳しく解説します。
翻訳のやり直しにつながった事例(元発注側の経験)
私たちはかつてメーカーの社内翻訳者でした。製品のマニュアルやソフトウェアはほとんど社内で翻訳し、間に合わない時だけ翻訳を外注していました。国内外の翻訳会社に依頼し、その時に私たちが実際に経験した問題を説明します。
翻訳メモリ・用語集・スタイルガイドを渡しても参照されない
一つの製品に数種類のマニュアルがあり、量は30万ワードクラスです。量が量なのでTradosを常に使い、翻訳メモリ、用語集とスタイルガイドで高品質なマニュアル翻訳を運用していました。
翻訳を外注するときもメモリ、用語集、スタイルガイドの3点を提供し、要望や注意点などを正確に伝えていました。しかし、納品されたのは、まるで用語集とスタイルガイドを全く参照していないような翻訳です。
製品の発売スケジュールが迫るなか再チェックを依頼しても改善が見られず、最終的には社内でゼロから再翻訳することになりました。
違う言語の翻訳が納品された
別製品で国内翻訳会社に依頼したときです。製品はブラジル市場にも展開されるため、ポルトガル語も主要言語の一つでした。ポルトガル語は本国(ポルトガル)やブラジルの他にも、アフリカ・アジアのいくつかの地域で使用されます。同じ言語とはいえ、地域ごとの独自進化によって実態は別の言語です。
翻訳会社の営業と綿密は打ち合わせを行い、「ブラジルのポルトガル語」が必要だということを明確にしました。しかし、納品されたのは、見たことない違和感たっぷりのポルトガル語でした。
早速翻訳会社の担当者に確認したところ、「ブラジルのポルトガル語だ」の一点張りです。らちが明かない。こちらの「ポルトガル語分かりますか?」という質問対し、「分かりません。」だけが唯一の正直な回答でした。
翻訳に使用されている単語・表現の分析と納品ファイル一式から情報のトレース(追跡調査)を行ったところ、翻訳はアジアのとある地域で行われたことが判明しました。業界でも翻訳単価の安さだけが有名な地域です。
後に翻訳会社の担当者が認めて再翻訳を申し出たものの、信用がなければ時間もありません。この時も社内でゼロから翻訳をやり直すことに。外注して楽しようとした結果、倍の時間・倍の費用が掛かりました。
翻訳会社の“利益優先体質”をお見事に示す事件でした。
なぜこのような問題が起きるのか(業界の構造)
当時はなぜその問題が起きるのか分かりませんでした。選んだ翻訳会社がたまたまダメだったと考えましたが、そのあとは翻訳会社を変えても同様の問題が発生し続けました。つまり、これは“運の問題”のではなく、原因は翻訳会社の自体の構造にあります。
その答えが分かったのは、メーカーを辞めた私たちが国内外の翻訳会社に転職したときです。
窓口の知識不足
依頼者の要望を聞いて翻訳を受注するのは営業担当です。しかし、ほとんどの営業担当は外国語分からなければ、翻訳も当然やったことありません。
営業担当に営業スキル(話を聞く、口が上手い)は最重要であることに異論はないですが、扱っている商品を知らなければ話が始まりません。車に乗ったことない・運転したことないディーラーの営業を見たことありますか?
翻訳会社の中からその問題を見たとき、私たちがメーカー時代に経験した数々の失敗に納得しました。翻訳の仕組みを理解し、翻訳のさえ知識があれば誰でも分かる要望を全く理解できなかったのは、窓口である営業担当にその知識も理解もなかったためです。
翻訳メモリが活かされない理由
営業担当が獲得した案件はコーディネーターやPM(以下、PM)と呼ばれている人たちに引き渡されます。
コーディネーターやPMは翻訳者を探したり、スケジュールを管理したりするだけではありません。CATツールで翻訳用ファイルを作成したり、必要な資料(スタイルガイドや用語集)を加工・セットしたり、翻訳者への具体的な作業指示を書くなど、翻訳の品質に大きなインパクトを与える司令塔のような存在です。そのため、翻訳者として長い経験を持ち、CATツールや正規表現などの幅広い知識と技術力が求められます。
しかし、現実は残酷です。私たちの感覚ですが、コーディネーター・PM10人中:
- 6人が日本語以外の外国語を理解できる(大学または留学レベル)
- 2人が実際に翻訳したことある(元翻訳者)
- 2人がCATツール使える(基本操作のみ)
- 0人が正規表現の知識を持っている
私たちが依頼時に提供していた翻訳メモリ、用語集、スタイルガイドが無視されていたのは、翻訳会社にそのデータを活用できる技術力がないためです。
根本的な原因は翻訳会社の“利益優先体質”
翻訳業界はアウトソーシングで回っています。アウトソーシングは仕事を自分でやらず、100で取った案件を99でやってくれる誰かに頼めば、少なくても1の利益が得られる不思議な仕組みです。当然ながら、1の利益などを求める者はいません。
案件を獲得した翻訳会社は自分で翻訳せず、極力安い翻訳者に再委託しようとします。“寛大”な翻訳会社なら取り分が50:50になりますが、近年流行りのMTPEでは翻訳者の取り分は15~30の間です。
翻訳会社に残る利益が多い分、営業、コーディネーターやPMの語学・ITスキル向上に投資できます。しかし、私たちが見てきた翻訳会社では人材育成は行われていません。利益のほとんどは会社の看板や役員層の報酬に消えます。
どうすれば失敗を防げるのか?チェックすべき点
やり直しレベルの翻訳を提供するのは十分な知識と技術力がない翻訳会社であれば、失敗しないためには知識と技術力が高い翻訳会社を選ぶしかありません。問題は、どこを見ればそれが分かるかです。
営業ではなく実務担当と話せるか
私たちの事例のように、営業と数回の打ち合わせを行っても意味がありませんでした。なぜなら、私たちは翻訳の形式的な話ではなく、かなり技術的・オタク的な話をしていました。一般人が裁判資料を読むような感じで、チンプンカンプンだっただろう。業界の背景を知っている今では、ただただ気の毒です。
しかし、プロの世界で重要なのはビジネスを成功させることです。そのためには、確かな知識が求められます。不要なやり直しを防ぐためには、確かな知識を持つ営業担当を見つけることが大事です。
打ち合わせで「この人分かっていないかも」と思ったら、別の翻訳会社を探すか、実務担当でコーディネーター・PMと直接話すべきです。多少面倒でも、そのあとの時間・お金の無駄と機会損失を考えれば微々たる手間です。
メモリ・用語集の運用体制を見る
運よく営業担当者が元翻訳者で豊富な知識を持っていたとしても、実際に翻訳ファイルを作成し、品質に大きな影響を与えるのはコーディネーター・PMです。つまり、翻訳会社の“核”が弱かったら、完璧な翻訳メモリ、スタイルガイドや用語集などの資料を渡しても意味がありません。
実際に翻訳を依頼する前に、その翻訳会社がどんなツールを使い、どのような体制で翻訳全体を回すか確認しましょう。コーディネーター・PMと直接話して、その知識量・技術量を確認できればなおさらいいです。
誇張しない翻訳会社を選ぶ
今思えば、依頼したほとんどの翻訳会社は“実績豊富”、“世界50言語”をうたい、営業の“ミープロフェッショナルだから何でも任せて感”に私たちが目をキラキラにしながら期待していました。そんな数々の失敗を重ねながら、一つのことに気づきました。
失敗の中でも最も傷が浅かったのは、変に誇張しない翻訳会社に依頼したときでした。営業担当も口下手というより、的確な質問をする人でした。その会社の内部事情はもちろん分かりませんが、それまで重ねた経験から「営業と翻訳の品質が反比例する」かもしれません。
業者を選ぶときのその他の注意点については、翻訳会社の選び方をチェックしてください。
私たちがこの問題をどう解決しているか
依頼する立場だったときのもどかしさは何とも言えないものでした。翻訳メモリ、用語集、スタイルガイドまで提供しているのに、品質に役立てる翻訳会社はありませんでした。
「なければ作ればいい」。創業者の一言で数名の社内翻訳者が集まり、Intenciaを立ち上げました。
これまで説明してきた問題の原因である営業やコーディネーターを完全に取っ払い、品質に重きを置いた全く新しい仕組みを作りました。プロのニーズを翻訳のプロが直接応える次世代の翻訳サービスです。
依頼者の苦しみを痛いほど分かっているプロの翻訳者が直接対応します。
まとめ
作業の“やり直し”につながる低品質な翻訳は、営業担当やコーディネーター・PMの知識と技術不足によって起きます。しかし、その根本的な原因は翻訳会社の“利益優先体質”にあります。翻訳から得た利益を人材育成に投入するだけで、依頼者が求める最低限の品質をクリアできます。
良い翻訳と悪い翻訳を出す翻訳会社の見分けは難しいですが、営業とコーディネーター・PMにとことん話をすることで見えてくるものがあります。また、自分を大きく見せようとする業者には注意してください。翻訳の品質を決めるのはマーケティングの数字ではなく、対応する人の知識と技術です。












