翻訳の見積もりを見ると、「ネイティブチェック」という項目が追加されていることがあります。
しかし、「翻訳した人は英語が分かる人ではないのか?」「本当に必要なの?」と疑問を感じる担当者も少なくありません。
この記事はネイティブチェックが発生する理由、料金の相場と、依頼前に理解しておきたい“できること・できないこと”を解説します。
翻訳のネイティブチェック料金の相場
ネイティブチェックは依頼する翻訳会社によって、見積もりに記載される“不思議”な項目です。そのチェックにまつわるお金の話を説明します。
ネイティブチェックの費用はいくら掛かるのか
内容と言語によりますが、ネイティブチェックの料金は8~18円/字の間に設定されることが多いです。例えば、依頼したい翻訳は日本語から英語で、原稿(日本語)の文字数が1万字だったとしよう。翻訳の単価が20円/字でネイティブチェック(15円)を追加した場合、文字単価の合計は35円になります。原稿の1万字×文字単価35円で依頼者の支払いは35万円(+税)になります。
チェッカーの報酬はどうなっているのか
ネイティブチェックを行う“チェッカー”はいくらもらうのか。
翻訳会社とチェッカーの取り分は翻訳者同様6:4の場合が多いため、ネイティブチェックが15円だったら、翻訳会社は9円、チェッカーは6円もらいます。計算の根拠は日本語の1万字なので、この案件でチェッカーは6万円の報酬を受け取ります。しかし、これは文字数をベースにした古いやり方です。
数年前からチェックを「時給」で払う傾向が増え、時給の相場は1,200円~2,200円です。しかも、翻訳会社からの時間指定です。翻訳会社が「1万字のチェックは8時間あれば十分だろう」と決めつければ、チェッカーの報酬は高くても2,200円×8時間の17,600円です。
そもそもネイティブチェックとは何か
誤訳チェック、用語チェック、スタイルガイドチェックなど、翻訳には様々なチェック項目が存在します。その中で、ネイティブチェックは何を見るチェックなのか?
翻訳の不自然さを見つけるチェック
簡単に言えば、ネイティブチェックは不自然な文章を見つけるためのチェックです。翻訳業界で言う“ネイティブ”はその言語を母国語とする人のことを指します。つまり、訳文の言語を母国語とする人が、“この文章が普通に聞こえるかどうか(違和感がないか)”をチェックします。
具体的になにをチェックするのか‐不自然な文章を体感
ネイティブにしか分からない違和感とは何だろうか。分かりやすく説明するため、日本語の例を出しましょう。
知り合いのパーティーで「あなたの名前は何ですか?」と聞かれたらどう思いますか?
「お名前は?」という自然な聞き方ではなく、日本語の教科書通りの聞き方をされたら、一瞬「うん?」って思うはずです。もちろん名前を教えて会話もしますが、相手は日本語があまりできないことが分かります。
この一瞬の“引っ掛かり”が違和感の正体です。文法的に間違っていないが、「不自然な聞き方」で一瞬だけ注意力が飛んでしまいます。
ネイティブチェックは訳文のこうした違和感や引っ掛かりを修正して、“自然に聞こえる文章”に仕上げる作業です。
ネイティブチェックがあっても解決できない問題
オプションとしてネイティブチェックを追加すると翻訳全体の品質が上がる気がしますが、本当にそうだろうか?ネイティブがチェックしても防げない問題を説明します。
翻訳が正しいかどうかは別の問題
ネイティブチェックはかなり雑な場合が多いです。翻訳会社がチェッカーに訳文のみを渡して、「一通り読んで、不自然な英語があれば直してください」という程度のチェックがほとんどです。
原文(日本語)も一緒に渡すとチェッカーが2つの文章を読んで、細かく見比べる必要が出てきます。つまり、倍以上の時間が掛かります。ネイティブチェックのコストが時間で計算されている場合、そのコストをなるべき抑えたいのは翻訳会社の本音です。
そのため、チェッカーは訳文しか見ていないことが多いです。原文を見なければ、文章が正しく翻訳されているかどうかは分かりません。つまり、ネイティブチェックで誤訳は防げません。
用語のチェックは対象外
翻訳の重要な品質項目である「用語」もネイティブチェックの対象外です。チェッカーに原文も支給されたとしても、用語集まで渡されることはまずありません。
仮に用語集が渡されたとしても、チェッカーはCATツールのバイリンガルファイルがないため、用語が正しく統一されているかどうかまでチェックできません。
スタイルガイドが狂うことも
スタイルガイドには様々なルールがあり、中には文章を不自然な形に変えるルールもあります。しかし、ネイティブチェッカーにスタイルガイドが渡されることはないため、不自然な英語を見つけたら問答無用で修正します。修正した箇所がたまたまスタイルガイドで指定されている場所なら、スタイルガイドに合致していない翻訳が納品されます。
ネイティブチェックは本当に必要?
ネイティブチェックは“文法的に間違っていないものの不自然な翻訳”を直すために行います。そこで当然湧いてくるのは、「なぜ最初から英語できる人に翻訳を頼まないか」という疑問です。その理由と“からくり”を説明します。
なぜネイティブチェックが必要か?
ネイティブチェックというオプションはすべての翻訳会社が出している訳ではありません。ネイティブチェックを追加できる会社があれば、そもそもそのオプションが存在しない会社もあります。その違いはどこにあるのか?
答えは単純です。最初からネイティブレベルの翻訳者が翻訳している会社があれば、教科書程度の外国語しかできない翻訳者が翻訳している会社もあります。前者にはネイティブチェックはそもそも不要なので、そのオプションが用意されていません。後者は心許ない翻訳者がやっているため、“救いの手”としてネイティブチェックが用意されています。
その違いはそれぞれの会社の翻訳に対する考え方にあります。「高品質な翻訳こそ道理だ」と考える翻訳会社があれば、「利益こそが正義だ」と考える業者もあります。どちらが正しいかというより、依頼者がその事実を分かった上で、自分に合う会社に依頼するかどうかの問題です。
なぜネイティブレベルではない翻訳者に頼むのか?
翻訳のコストを下げて、利益を上げるためです。
翻訳は“実力の世界”です。海外在住の経験がある本当に上手いプロは単価がそれなりに高いです。腕のある翻訳者の単価は20円前後ですが、未熟な翻訳者は0.5~5円で翻訳します。
安い翻訳者とネイティブチェックを上手く組み合わせることで、全体的なコストを下げながら利益率を確保できます。
翻訳会社と翻訳者の取り分などの詳細については、翻訳料金がどのように決まるかを読んでください。
後からのネイティブチェックと最初からネイティブ翻訳‐どっちがいい?
ネイティブチェックを付けた場合の翻訳とネイティブレベルの翻訳者が作った翻訳、どっちの方がいいのか?ここでは見落としがちなポイントとネイティブチェックの上手な使い方を説明します。
100対0でネイティブ翻訳に軍配
翻訳にネイティブチェックを施したとしても、ネイティブ並みの翻訳者が作った文章と同じレベルになりません。理由は簡単です。ネイティブチェックは文章の不自然さのみを修正します。未熟な翻訳者が出した誤訳、用語集やスタイルガイドなどの問題は残ったままです。
一方で、最初からネイティブレベルのプロ翻訳者が翻訳した場合、不自然な文章はもちろん、誤訳、用語集やスタイルガイドの問題はそもそも発生しません。
高いプロの翻訳者より、未熟な翻訳者+ネイティブチェックの方が間違いなく安いです。しかし、依然として残る誤訳やスタイルガイドなどの問題を解決するための追加費用、やり直しの可能性、納期延長(発売延期などを含む)などの被害を考えると、最終的な損失がプロの翻訳者のコストと比べ物にならないほど莫大な金額になります。安い業者に頼んだ家のリフォームのように、安く済むと思ったものが結局高く付きます。
頼んでから実際に使うまでが翻訳のコストです。予想外の損失を被らないためには、翻訳を最初からできる人に任せた方が間違いなくいいです。
工夫すればネイティブチェックは使える
では、ネイティブチェックは全く使えないかというと、そうではありません。例えば、英語はできるけど、海外で暮らしたことないから現地の人の感覚がない場合、自分で翻訳すればいいです。自分で翻訳したら、誤訳、用語集、スタイルガイドなどの問題はすべて自分で保証(解決)できます。文章の自然さだけを後付けのネイティブチェックに任せたら、大抵の問題はクリアできます。
まとめ
ネイティブチェックは訳文の自然さを高めるために行うチェックです。料金は文字当たり8~18円の間に設定されることが多く、翻訳会社によってオプションとして用意されている場合と、最初から含まれている場合があります。
最初から高い言語能力(ネイティブレベル)を持つ翻訳者が翻訳すれば、ネイティブチェックを行う必要ありません。つまり、ネイティブチェックが必要ということは、その言語を十分勉強していない人が翻訳したことを示します。その場合、翻訳者としての能力も低いため、誤訳、用語集やスタイルガイドなどのミスが生じている可能性が高いです。












