MTPE翻訳はなぜ嫌われるのか?理想と現実のギャップから原因を読み解く

最終更新日:2026年4月13日
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翻訳の効率化として2016年ごろから浸透してきたMTPE翻訳。
あれから10年。なぜMTPEが翻訳者の反感を買い、クライアントも使用禁止を打ち出しはじめたのか?
MTPEの理想と現実、そしてそのギャップが生まれた背景と裏側を整理します。

この記事の内容

MTPE翻訳が登場したときに語られていた“理想”

MTPE翻訳が広がり始めたのは今から10年ほど前の2016年ごろでした。あの時には何が語られ、どのように普及したのか?

コスト削減

機械もAIもない時代に、翻訳は人間が作るものでした。安い翻訳会社、高い翻訳会社、激安のクラウドソーシング翻訳など、腕の差があっても人間が翻訳していました。

そこに突然現れたのはMTPEです。翻訳は機械がやるので、人間に頼むより安く翻訳を手に入れることができます。もちろん、機械はまだ完璧ではないので、翻訳者がチェック・修正を行う必要があります。しかし、ツバをつけて軽く擦る程度なので、安いですよ!

こうして、MTPEは人間の翻訳より“お得”というイメージが植えつけられました。

スピード向上

映画で分からないことを説明するときに、主人公がクールな表情を決めながら「ナノテクだ」でごまかす時代がありました。翻訳の世界では“アルゴリズム”という言葉が流行りました。

MTPEは翻訳メモリと独自のアルゴリズムで原文に対して最適な翻訳を割り当てます。その処理が高性能なコンピューターで行われているため、翻訳のスピードは人間の10倍以上です。速いですよ!

仕組みはチンプンカンプンですが、人間の10倍の速さだけが先走ってしまい、MTPEは人間の翻訳より“納期が早い”という印象が作り上げられました。

安さと早さが正義

ビジネスでは“安さ”と“早さ”が過剰に重視される傾向があります。安さで自分の利益が増え、早さではライバルに勝てるからです。つまり、ビジネスでは安さと早さが“正義”です。

その“正義”にお見事に合致したのはMTPEが掲げた理想です。人を最小限に留めることで費用を安くし、機械に翻訳をやらせることで早く納品できるという理想です。それが誰から見ても合理的で、夢のような翻訳方法に映りました。

10年経って見えてきた“現実”

あれから10年。MTPE翻訳の価値を測るのに十分な年月が経過しました。MTPEを上手く使い分けるクライアントがいれば、可笑しな翻訳で話題になった企業もあるでしょう。

果たして、MTPE翻訳はあの絵に描いたような夢の世界になっているでしょうか?

翻訳者:割に合わない構造

MTPEを推し進める翻訳会社曰く、MTPEはツバで擦る程度の修正なので、翻訳者の負担が軽いものです。そのため、翻訳者の実質単価はMTPE台頭前の30%以下に引き下げられました

その仕組みも巧妙です。単価自体は元々の50~70%程度ですが、MTPE翻訳特有のWeighted Wordsという文字数計算によって、翻訳者がチェックすべき文字数が増えます。文字数が増えた分単価が圧縮されるので、「もらった報酬」を「実際にチェック・修正した文字数」で割ると、最終的な文字単価は従来の30%以下になります。

事前の相談時に「2,000字です」と言われて、ファイルが届いたら1万字に目を通す羽目に遭った経験ありませんか?これがWeighted Wordsの罠であり、単価が圧縮される仕組みです。

また、MTPE翻訳の質は古き良きGoogle翻訳レベルです。つまり、翻訳者の作業はツバで擦って修正するものではなく、翻訳をゼロからやり直すレベルです。

この現実に対し、腕のある翻訳者はMTPE案件を拒否し、従来の高品質な翻訳を求める翻訳会社・クライアントと取引しています。そこまでの腕がない翻訳者は業界を去るか、もらっている報酬に合わせて品質を調整しています。

翻訳者から見たMTPE問題については、MTPE翻訳を引き受けるときの単価や考え方をチェックしてください。

クライアント:使用禁止の動き

MTPE翻訳は安さと早さが売りでしたが、ビジネスを続ける上で一番重要な“品質”が見落とされてしまいました。

機械が作る翻訳の良し悪しは翻訳メモリで決まります。翻訳メモリにデータがいっぱい入っていれば“良い”翻訳が出て、メモリにデータがあまり蓄積されていなければ“悪い”翻訳が出ます。翻訳者もバカではないので、支離滅裂な翻訳に対しては、もらっている単価相応の手直ししかやりません。

つまり、クライアントは安さ・早さと引き換えに、質の低い翻訳を掴まされています。もちろん、それでもビジネスが成り立てば“正義が勝った”といえます。しかし、クライアントの顧客もバカではありません。

近年は医療分野をはじめ、海外の複数企業がMTPE翻訳の禁止を打ち出しました。MTPEで疎かになっていた品質と情報セキュリティに対する懸念を背景に、MTPEの使用を禁ずる方針が少しずつ広がっています。

なぜ“理想と現実の捻じれ”が起きたのか

合理的に見えた話がなぜここまで問題になったのか?

MTPEは“効率化技術”→“パイを奪うためのビジネススキーム”になった

MTPEは、クライアントや市場のニーズから自然に生まれた技術というよりも、翻訳の効率化を掲げて翻訳会社が広めたものです。しかし、競争が激化した翻訳業界の中で、価格を下げて受注を確保するための“道具”として使われてしまったのが現状です。

この流れが、MTPE翻訳の理想と現実のギャップを生んだ主な要因となりました。

機械翻訳のレベルが理想に追いつけなかった

機械が翻訳の8割をやるため、翻訳者は残りの2割だけをちょいちょいと仕上げればいい。そのはずでした。

しかし、箱を開けてみると機械翻訳の精度が低く、品質を100に持っていくためには翻訳をゼロからやり直す必要があります。翻訳者の負担は夢のような2割ではなく、実質100%です。

機械翻訳の精度に関しては翻訳メモリの影響が大きいですが、それより問題なのは原稿作りです。センテンスが全部途中で切れていたら、いくらいいメモリを持っていても意味がありません。その仕組みに対する理解・技術不足が“理想の実現”を阻んだ要因の1つです。

利益配分の変化が品質に影響

機械翻訳の精度は再翻訳レベルにも関わらず、翻訳者の単価が引き下げられました。その結果、翻訳者はもらっている報酬相応の修正しかできなくなりました。

MTPEが誕生する前の通常翻訳は、以下のようなイメージで利益配分が行われていました。

クライアントへの価格:35円
翻訳者への支払い:15円
翻訳会社の利益:20円

しかし、MTPE翻訳が普及すると次のような利益配分に変わりました。

クライアントへの価格:28円
翻訳者への支払い:5円
翻訳会社の利益:25円

上記の例ではクライアントのコストが5円下がるため、通常よりお得に翻訳できます。しかし、翻訳者の取り分が15円→5円の3分の1に削られます。翻訳者の作業量と報酬のバランスが崩れ、品質がその影響を受けてしまいます。

極端な例ではありますが、3分の1の単価で従来と同等の品質を維持することは現実的ではありません。これは翻訳に限らず、多くのサービスに共通する性質です。

その結果、従来と比べてクライアントは20%のコスト削減を入手できますが、引き換えに品質が3分の2犠牲になります。この10年で「得るものに対して失うものが大きい」と判断したクライアントがMTPEの使用禁止に動きます。

MTPEは今後どうなるのか

私たちがMTPEの歩みを10年ほど見てきましたが、使う人、“使われる人”、聞きたくない人など、立場によって見る目が変わるでしょう。10年後、MTPEはまだあるのか?生き残っているならどんな方向に向かうのか?次の10年に起こりうることを予想してみました。

MTPE-APEの台頭

翻訳会社は翻訳者のリクルートに苦戦しています。MTPE翻訳は割に合わないため、敬遠する人が多いです。集まるのは報酬に合った品質を出す翻訳者か、経験値が欲しい新人です。

そこで次の一手として、一部の翻訳会社で開発が進んでいるのはMTPE-APE(またはMT-APE)というやり方です。APEはAutomated Post Editの略で、AIにポストエディットをやらせる方法です。

今までMTPEにつぎ込まれた開発費用が大きいので、そのまま諦める訳にはいかないようです。

AITPEへの移行

MTPEの最大の問題は機械翻訳の精度です。当初語られていた8割の精度があれば、MTPEが上手く行っていたかもしれません。

機械には無理でも、AIなら話が別です。AIが翻訳した文章を翻訳者がチェックすれば、10年前のMTPE推奨論者が語っていた夢の世界を実現できます。しかし、そのハードルが高いです。翻訳会社各社が自前のAIをゼロから作らない限り、原稿やクライアントの情報が流出してしまいます。情報漏洩が致命的な損失につながる世界では、データセキュリティは品質に並ぶ重要事項です。

クラウドソーシング翻訳のようにフェイドアウトする

“クラウドソーシング翻訳”覚えていますか?8~9円の超低単価が売りで、出てきたときは翻訳会社の脅威になると言われていましたが、今はもう死語です。

翻訳者の報酬が1.2円という不可解な単価設定だったこと、品質が“値段なり”かつ利用シーンが限定されていたため、AI翻訳にすぐ置き換えられました。

MTPEがメリットのある独自性を出さない限り、AI翻訳に飲み込まれる可能性が十分あります。

結論:MTPEは“間違い”だったのか?

10年前にMTPEが打ち出した「翻訳作業の効率化」という理想は正当で追い求める価値が十分ありました。しかし、その理想が「効率化」から「利益」に変わった瞬間、運命の歯車が狂ってしまいました。

翻訳者に“作業に見合う単価”が設定されていたら、現在のMTPEはどうなっていただろうか?“たら・れば”の話をしても意味がありませんが、ビジネスでは誰かが欲をかくと、せっかくのいい話も失敗に終わることがあります。

MTPEに関する意見、大歓迎です!
立場が変われば意見も変わります。
“良い翻訳”とは何か?

この記事を書いた人たち:

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Intenciaチーム

日本と海外を遊び尽くし、翻訳とマーケティングに長く携わっている“いい歳している”大人たち。自分たちの手で立ち上げた会社を通じて、多角的な視点と本質を射抜く経営観を日々養っている。

作成日:2026年4月9日
最終更新日:2026年4月13日

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