用語集を渡したのに翻訳が用語集通りになっていなかった。
結局は自分たちで修正した。
実務レベルではこのような問題が多いです。
この記事は用語集を単なる“オプション”から、高品質な翻訳を作る“必需品”にするための方法を教えます。
そもそも用語とはなんなのか?
用語はその業界または企業内で使われる物の特有の呼び方です。例えば、私たちが普通に“ボタン”と呼んでいるものはある業界では「スイッチ」と呼んだり、私たちが“車のカギ”と言っているものは特定の企業では「スマートキー」と呼んだりします。
なぜそんな面倒くさいことをするの?
“大人の事情”です。業界用語を作ることで物事の理解が早くなったり、似ているものを区別したりできます。社内用語(会社特有の用語)の場合、その企業の独自性を出すことで、商品の売り上げが伸びたり、企業の知名度が上がったりします。
業界や社内の用語の集まりが用語集
その一癖も二癖ある単語を集めたファイルが用語集です。業界の用語集があれば、企業の社内用語集もあります。業界の用語集は購入やリサーチから手に入れることができますが、社内用語集はその企業が独自に作っているものなので、翻訳依頼時に提供してもらうことが一般的です。
用語集であなたが得るメリット=翻訳の品質
高品質な翻訳は役に立つ翻訳です。文字数が多い翻訳ではなく、高級な紙に印刷された翻訳でもありません。あなたがその翻訳で「果たしたい目的を果たす翻訳」こそが高品質な翻訳です。つまり、あなたの役に立つ翻訳こそが高品質な翻訳です。
社内の無駄な修正を回避
翻訳依頼時に必要な用語集を提供することで、依頼者は納品後の無駄な修正やチェックを回避できます。用語の不統一による会社の人的、時間的と経済的な損失が発生する仕組みについては、納品後の修正地獄が起きる理由をお読みください。
製品のUXを高める
取扱説明書に書いてある指示と製品の画面に出ている指示が違っていたら、心の中で“使えないゴミだな”と思いませんか?用語集を使うだけでこのような問題を回避できます。
用語を正しく使うだけで各所の情報が分かりやすくなり、ユーザービリティの向上、転じてユーザー体験(UX)が向上します。
売上を上げる
良くできた商品は人に勧めたくなるものです。用語集は翻訳の品質を上げ、品質の高い翻訳は製品のブランディングにつながります。ブランド力の高い製品は売り上げに貢献します。
社内リソースを守る(サポートパンク)
分かりにくい取扱説明書をいくら読んでも埒があきません。問題を解決できないユーザーはサポートデスクに電話します。分かりにくいと思ったのはユーザー一人だけではないので、サポートセンターがパンクします。用語集は社内リソースの負荷を軽減する力を持っています。
翻訳の納期を早める
社内特有の用語をどのように翻訳すればいいか分からないとき、依頼者・翻訳会社・翻訳者が壮大な“伝言ゲーム”に巻き込まれます。この不要なやり取りが納期を遅らせる原因です。用語集があれば、このような無駄な問い合わせを避け、翻訳の納期を早めることもできます。
無駄なコストを省く
間違いの修正は基本的に無料ですが、好みによる変更は有料対応の場合がほとんどです。用語が2つ以上存在し、どっちらを使っても正解という時があります。あとからどちらか一方に変更する必要があったら、予想外の費用が掛かります。しかし、最初から用語集があれば、その予想外の問題を防ぐこともできます。
用語集の理想的な運用体制
用語集を正しく使うことで、高品質な翻訳を手に入れることができます。ここでは、用語集のメリットをフル活用するための条件を説明します。
用語集の知識を持つ翻訳者
用語集を正しく運用するためには、翻訳者自身が用語集の重要性を理解して、その使い方を知らなければなりません。その深い知識があって初めて、どこで用語を守って、どこで敢えて使わないかなどの判断ができます。
翻訳にCATツールを使う
3つの単語しかない用語集があれば、3万件以上の用語を持つ用語集もあります。3つの単語なら頭に入れられそうですが、3万となると話が変わります。
用語集を正しく使うためには、記憶に頼らない仕組みがが必要不可欠です。その仕組みを実現するのはCATツールと呼ばれる翻訳支援アプリケーションです。
TradosなどのCATツールを使うことで、アプリケーションが必要な用語を必要な時に出してくれます。翻訳者が記憶に頼る必要がなくなるため、用語の使用をうっかり忘れたり、記憶違いで間違った用語を使ったりするミスが減ります。“探し物”もしなくて済むため、翻訳のスピードが上がることは言うまでもありません。
チェックにXbenchを使う
それでも人間は間違いを犯す生き物です。その問題をどう防ぐのか?
用語が正しく使われていることを確認するため、Xbenchという別のCATツールを使用します。XbenchはTradosとの相性が良く、用語が用語集通りに使われているかどうかをチェックしてくれるアプリケーションです。
Tradosで用語を確実に使い、Xbenchでダブルチェックを行うことで、用語に関するミスを大幅に減らすことができます。
正規表現の知識を持つ
しかし、それだけでは足りないです。Xbenchのチェック精度をさらに高めるためには、“正規表現”というプログラミング言語のような知識が必要です。
正規表現は分かりやすく言えば、文字を数学的に扱う技術です。例えば、Wordの検索で「りんご」という単語を確実に検索できます。しかし、“りんごに似た単語”を検索できますか?
正規表現は検索条件を作るだけで、用語の間違いを間接的に検出できる技術です。Trados+Xbench+正規表現を組み合わせて初めて、用語に関するミスをゼロに近いレベルまで減らすことができます。
用語集の効果を弱める現実
依頼時に用語集を提出したのにも関わらず、用語がめちゃくちゃな翻訳を納品された依頼者は少なくないでしょう。依頼する側だった私たちもこの問題を何度も経験しています。それでは、なぜ翻訳が用語集通りにならないのか?翻訳業界が抱える問題とともに、その仕組みを説明します。
用語集に対する理解不足
用語集の重要性と使い方が分からない翻訳者・翻訳会社が多いです。
私たちがメーカーの社内翻訳者だったころ、社内で間に合わないものを翻訳会社に依頼していました。用語集は機械製品のパーツ名から製品を動かすアプリケーションのUIまで、数万件の項目で緻密に作成されました。用語集は翻訳の品質を上げる必需品だと知っていたためです。
しかし、戻ってくる翻訳はいずれも用語集を遵守していないものでした。担当者に聞くと、用語集は“参考資料”という認識で使っていたそうです。つまり、困ったら見ればいいという感覚でした。
この“温度差”が今でも続いている問題です。
CATツールに用語集を組み合わせていない
もう一つの問題点は「CATツールが思ったより普及していない」ことです。普及していない理由はアプリケーションの値段と使いこなす難しさにあります。
CATツールは無料のものから100万円もするものまでがありますが、実務に必要な機能性を備えているのは有料版です。実行するPCも含めて100万円単位の投資はハードルが高いです。また、CATツールは独特な作りになっているため、仕組みと機能を覚えるためには「莫大な時間」と「理屈を理解できる頭」が必要です。
用語集が“参考資料程度”として使われているのは、用語集を読み込んで連動するためのCATツールがないからです。
正規表現の知識がない
翻訳者はほとんど“文系”と呼ばれている人たちが担っています。文系はほとんどの場合数学が苦手で、プログラミングなど論外です。つまり、プログラミングのように文字を数学的に扱う正規表現は、翻訳者から見て“アレルギーもの”です。
正規表現は“必要なのに使えない”技術になっているため、用語集を正確に運用できる人が少ないです。
ビジネスに必要な品質を手に入れる方法
用語集を正しく運用するためには知識を持つ翻訳者や複数のCATツールなど、大きな投資が必要です。しかし、“翻訳屋”にならない限り、その投資の回収が難しいでしょう。それでは、どうすれば用語集を遵守した翻訳が手に入れられるのか?
次はあなたのビジネスが求める品質に応じて、正しい判断を下すためのチェックポイントを説明します。












