AI翻訳の精度が仕事で使えるレベルだと判断できても、企業が利用する場合にはもう一つ考えなければならないことがあります。
翻訳する原稿の情報を、AIサービスに出していいのか。
顧客情報、製品情報、価格、契約内容、発売前の商品情報、新しいビジネスや商品のアイデアなど、企業が翻訳する文書には外部に出したくない情報が含まれていることがあります。
AI翻訳を使ったからといって、その情報が必ず漏れるわけではありません。AIの学習に使われることがあれば、社員が個人的に使用することもあり、不正アクセスによって情報が盗まれる可能性も否定できない。
AI翻訳のセキュリティを考えるときは、「AIが学習するかどうか」だけではなく、様々な視点から考える必要があります。
AIに原稿を送ること自体は「情報漏洩」ではない
AI翻訳を利用するには、翻訳したい文章をサービス提供者のシステムへ送る必要があります。
これはWebメールやオンラインストレージなど、多くのクラウドサービスと基本的には同じです。外部企業が提供するシステムを利用する以上、データ・情報があなただけのものではなくなります。
ただし、外部サービスへデータを送ること自体を「情報漏洩」と呼ぶのは正確ではありません。
契約や利用条件に基づいて情報を預け、適切に処理されているのであれば、それは通常のクラウドサービス利用です。
問題は、情報を外部へ渡した時点から、自社だけでは管理できない部分が生まれることです。
「AIの学習に使われるか」だけを確認しても十分ではない
AIサービスを業務で利用するとき、「入力したデータがAIの学習に使われるか」を確認する企業は増えています。
これは重要な確認事項です。サービスやプランによって、入力データの学習利用、保存期間、削除方法などの条件は異なります。
しかし、「学習に使われない」と書かれていることと、「情報が外部へ漏れる可能性がない」ことは同じではありません。
学習に利用しなくても、サービスを提供するためにデータを一時的に処理する必要があります。機能によっては一定期間保存されることもありますし、サポートやセキュリティ対応などのために限定されたアクセスが必要になる場合もあります。
つまり、学習に使われないことは重要ですが、それだけで情報管理の問題がすべて解決するわけではありません。
外部サービスを使うと残る3つのリスク
AIサービスに限らず、外部のクラウドサービスへ情報を預けると、自社だけで管理している場合にはなかったリスクが加わります。
一つは、サービス提供者の内部で情報が不適切に扱われる可能性です。企業がアクセスルールを設けていても、そのルールを実際に運用するのは人間です。社員による防犯カメラ映像のプライバシー侵害事件のように、顧客のデータを従業員が個人的利益のために使う可能性を完全にゼロにすることはできません。
二つ目は、設定や運用上のミスです。アクセス権限、保存設定、共有設定などが意図した状態になっていなければ、本来見られないはずの情報を第三者がアクセスできることがあります。
三つ目は、外部からの不正アクセスです。サービス提供者が最高レベルのセキュリティを謳っても、それは昨日までの話です。今日はそれを上回るレベルのサイバー攻撃で情報が盗まれます。
いずれの場合も、企業の責任は大きいです。なぜなら、サービスを提供するための「最小限のデータ取得」ではなく、利益を拡大させるための「最大限のデータ収集」を行っているからです。
つまり、外部に情報を預けることは、データが漏れる可能性を増やすことです。
利用規約や法人向けプランを確認する意味はある
ここまで読むと、「それなら利用規約を確認しても意味がないのでは」と思うかもしれません。
そうではありません。
入力した情報を学習に利用するのか、どの程度保存するのか、誰がアクセスできるのか、削除する方法があるのか。こうした条件を確認することは、企業がサービスを選ぶうえで重要です。規約が自社の条件を満たせば、サービスを選ぶときの安心材料になるでしょう。
しかし、「安心」と「安全」は別物です。
利用規約はサービス内容の“目安”を示すものであり、「絶対に情報が漏れない」と保証するものではありません。
規約を確認することと、預ける情報そのものを判断することは別々に必要です。
「安全なAIか」より「外に出してよい情報か」を考える
企業にとって現実的な判断基準は、「絶対に安全なAIサービスを探すこと」ではありません。
どのサービスを利用しても、リスクを完全にゼロにすることはできないからです。
そこで、AIへ原稿を入力する前に考えたいのが、「もしこの情報が漏洩した場合、困るか?」という点です。
すでに公開されているWebサイトの記事や一般的な案内文であれば、外部サービスで処理しても問題にならない場合があります。
一方、未公開の製品情報、顧客情報、価格、契約条件、設計情報、研究開発資料などは事情が異なります。漏れた場合の影響が大きい情報ほど、「どのAIを使うか」より前に、「そもそも外部サービスへ送る必要があるのか」を考える必要があります。
AIを使うなら、渡す情報を減らす方法もある
AI翻訳を使うか、まったく使わないかの二択で考える必要もありません。
顧客名を伏せる、個人情報を削除する、機密部分を別の表現に置き換える、公開済みの部分だけをAIで処理するなど、外部へ渡す情報を減らせる場合があります。
重要なのは、便利だから原稿をそのままアップロードするのではなく、そのサービスに渡す情報量を減らすことです。
情報セキュリティでは、強いサービスを選ぶことだけでなく、最初から外へ出す情報を減らすこともリスクを小さくする方法の一つです。
品質とセキュリティの両方を考えて、AIを使う文章を決める
AI翻訳を企業で使うときには、二つの問題を分けて考える必要があります。
一つは、その品質で目的を果たせるか。
もう一つは、その情報が漏れた場合、自分・自社がダメージを受けるか。
翻訳の精度に問題がなくても、機密情報を含むためAIに渡しにくい文書があります。反対に、機密性は低くても、顧客や取引先に出しても契約に繋がらない翻訳なら意味がありません。
では、実際にどのような文章ならAI翻訳を使いやすく、どのような文章なら最初から人間に任せた方がよいのでしょうか。
次の記事では、翻訳の品質と情報管理の両方から、AIに任せる仕事と人に任せる仕事の判断基準を整理します。













